物語学の森 Blog版 北大路春房(池田亀鑑)「香炉の夢」「婦人世界」昭和2年5月号、実業之日本社刊
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北大路春房(池田亀鑑)「香炉の夢」「婦人世界」昭和2年5月号、実業之日本社刊
2018-09-18 Tue 06:50
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   北大路春房(池田亀鑑)「香炉の夢」第16回「婦人世界」昭和2年5月号、実業之日本社刊を入手(画・高畠華宵)。この小説は、この号で中絶。「婦人世界」執筆リスト。長野嘗一が下記で述べているように、編集長を更迭されたための中絶であろうか。読者欄では、3月号も休載であったらしいことが分かる。

 長野嘗一「小説家・池田亀鑑 2」「学苑」昭和33年6月
  5 あまたの筆名のもとに
 「香炉の夢」(北大路春房・婦人世界1月―昭和2年5月)、「乱刃の巷」(青山桜洲・日本少年、1月-12月)、「栄光の騎手」(村岡筑水・前述)、「炎の渦巻」(青山桜洲・少女の友、1月-12月)、「青い小蛇の死」.(闇野冥火・少女の友1月-12月)の五大長篇をはじめ、「前世紀の怪魔境」(関野冥火・日本少年・4月-7月)の中篇、それに読切りの短篇を若干、五つのペンネームをフルに動員して、千手観音もどきの大活躍である。
 「香炉の夢

  6 覆面編集長

  昭和二年四月から一年間、亀鑑は第一高等学校の講師を嘱託された。ほぼ時を同じうして正式に実業の日本社員となり、「婦人世界」の編集を委託された。そういう名前はなかったが、事実上の編集長である。(房子夫人談)彼はこれまでも岩下小葉を通じて、この社の雑誌の編集にはたびたび智慧を貸してきた。それはほとんどことごとくが図に当った。増田義一社長はその才に惚れ込み、小葉を通じて彼の入社を懇請したのである。
 亀鑑が「婦人世界」の編集に当ってまっさきに断行したことは、いかにして婦人の隠された興味と関心とを洞察し、これに一歩先んずるかということであった。今日の女性と違って当時の婦人は口が重い。かくかくのことが知りたい見たいと思っても、人前をはばかってそれを口にする勇気がない。亀鑑は自分の知れる限りの女性を対象にして、それがどんなことであるかを考えてみた。そうして得た結論は、次の三つの項目であった。
   恋愛  結婚  性
 この三つこそは、いかなる世いかなる階級の婦人でも、永遠に最大の関心事であることを看破した。ただ男と違って女性には、これらを露骨に下品に語ってはいけないことをも知っていた。次にはこの三つを品のよいオブラアトに包む手段を考えた。はなたれた矢は的を射た。亀鑑のこの慧眼がみごとに女性の心臓を見ぬいたのだ。計画は着々実行にうつされた。
 恋愛――――名流婦人の恋愛事件などがあると、彼はただちに特派記者を派遣して取材させ、これをデスクで適当に編集して、次号の特別記事とする。石原純・原阿佐緒の恋愛事件がおきたとき、彼は野口武雄を臨時特派員として宮城県に出張させ、その記事をとっていち早く次号に組み込んだ。このときは婦人世界が一番乗りで、他社を出しぬき、その特別記事は大きく世間の視聴をひいた。社長は大喜びで、野口武雄は功績によって実業の日本社に入社し、日本少年の編集をゆだねられる身となった。人を見ぬく亀鑑の明は骨髄に徹するものがあったという。(野口氏談)
 結婚――――すでに結婚して社会的にも名を成した人々に、「こんど結婚するならどんな人が望ましいか」こんなアンケートを求めて、その解答をずらりと並べたことかおる。異性かどんな相手を求めているか――――これは年頃の男女がつねに関心することがらである。それを亀鑑は明敏にも洞察して、こういう企劃をしたのである。人はだれでも雑誌の目次を開いてみて、こういう肩のこらない安直で軽快な記事にはまっさきにとびつくものである。はたしてこれは多くの読者に好評であった。解答者に名の売れた名士ばかりを選んだところに、スマートで品のよい軽快さがあるではないか。
 また、「女性の悩みの相談」や、「誌上結婚媒介」という特別欄をもうけて、みずから覆面の解答者となったこともある。「結婚媒介」は開設のころはなかなかに好評で、さまざまな男女が自己の身の上と希望を誌上に公表して相手を求めたが、こういう企劃にはえてしてまやかしや遊び半分の投書がつきもので、それにいや気がさしたのか、途中でこの欄は廃止された。
 性――――セックスに関する記事ほど、ジアナリズムがあつかいにくいものはない。だれもが大きな関心をよせ、その知識に餓えておりながら、下手にあつかえば猥せつになるし、一歩ふみはずせば検閲にひっかかる。男子はそれでもさほど不自由は感じないが、女子には正確な知識を伝えてくれる源が少ない。そこで亀鑑は医者や名流婦人に依頼して、毎号セックスに関する特別記事を組むことにした。「破瓜期の少女の生理」・「処女の衛生」・「純潔の尊さ」・「結婚初夜の心得」・「妊娠と安産」――――こういう特別記事が、当時の婦人世界にはほとんど毎号組み込まれているのである。いまならこんな記事は珍しくもない。ヴァン・ヴェルテやキンゼイ報告がベスト・セラアになる現在と当時とは、根本的に事情が違う。このねらいは文字通り図星を射た。執筆者が専門の医者や名流婦人でまじめに書いているのだから、警視庁も手が出ない。読者は争ってこうした記事にとびついた。なかにはこれを読むために婦人世界を買うものすらあった。当時は性教育の必要性がまじめに論ぜられ出したころであって、結婚前の娘たちへの教科書として、雑誌を買う母親もあらわれた。
 することなすことが図に当たったなかに、一度だけ失敗したことがある。高田義一郎に「妊娠調節の方法」という記事を書いてもらったとき、それが当局の忌譚にふれて発禁になった。でき上った雑誌をことごとく焼きはらい、その責任を感じて亀鑑は一時引退した。
 ところが編集者か替ると、雑誌の売行きは目に見えて落ちた。そこで再び彼の出盧が要請され、もとの椅子に返り咲くという一幕があった。(皓氏談)


 
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