物語学の森 Blog版 「いと和う鳴いたる」猫の話
「いと和う鳴いたる」猫の話
2017-12-28 Thu 06:22


 花の咲き散るをりごとに、「乳母亡くなりし折ぞかし」とのみあはれなるに、同じ折亡くなり給ひし侍従大納言の御娘の手を見つつ、すずろにあはれなるに、五月ばかり、夜更くるま物語を読みて起き居たれば、来つらむ方も見えぬに、いと和う鳴いたるを、驚きて見れば、いみじうをかしげなる猫あり。いづくより来つる猫ぞと見るに、
姉なる人、
あなかま、人に聞かすな。いとをかしげなる猫なり。飼はむ
とあるに、いみじう人慣れつつ、傍らに打ち臥したり。「尋ぬる人やある」と、これを隠して飼ふに、全て下衆の辺りにも寄らず、つと前にのみありて、物も汚げなるはほかざまに顔を向けて食はず。 
 
 姉妹の中につとまみれて、をかしがりらうたがる程に、姉の悩む事あるに、もの騒がしくて、この猫をのみあらせて呼ばねば、かしがましく鳴きののしれども、なほ、さるにてこそはと思ひてあるに、患ふ姉驚きて、
 「いづら、猫は。こちゐてこ」
とあるを、
 「など」
と問へば、
 「夢に、この猫の傍らに来て、『おのれは侍従の大納言殿の御娘の、かくなりたるなり。さるべき縁のいささかありて、この中の君のすずろにあはれと思ひ出で給へば、ただしばしここにあるを、この頃下衆の中にありていみじうわびびしきこと』と言ひていみじう泣く様は、「あてにをかしげなる人」と見えて、うち驚きたれば、この猫の声にてありつるが、いみじうあはれなるなり
と語り給ふを聞くに、いみじくあはれなり。 (『更級日記』治安2年(1023)5月)

 我が家の私道に居場所を見つけたこの猫(手前のは推定14歳になるおっさん猫、後ろは 最近相棒になったメスの子猫)を、隣人さんの生まれ変わりと思って、あの日からまた餌やりをしています。
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