物語学の森 Blog版 「桃の花」詠の特殊性
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「桃の花」詠の特殊性
2017-11-11 Sat 08:34
陽明文庫本 『紫式部集』
   桜を瓶に立てて見るに、とりもあへず散りければ、桃の花を見やりて、
36 折りて見ば 近まさりせよ 桃の花 思ひ隈なき 桜惜しまじ
     返し                        
37 桃といふ 名もあるものを 時の間に 散る桜にも 思ひ落とさじ
  ※ 36 実践女子大学本「挿して見るに」、37 実践女子大学本「返し、人」

廣田收・上原共編『紫式部と和歌の世界-新訂版』武蔵野書院、2012年の廣田收先生の注解は以下の通り。

桃の花-百(もも)という長寿を意味する名。『古今集』以後「桃」が歌われることは珍しい。桃を紫式部に、桜を宣孝に喩える説(『叢書』『(和歌文学)大系』)も。上原作和は「もも」を紫式部の幼名という。「新婚時代間もなく、桃の節句を控えての贈答」(『新大系』)

廣田訳 桃の花よ、折ってみれば散るさまがより優れていてほしい。思いやりのない桜を惜しむことなどしない。
廣田訳  百というめでたい名前もあるのだから、時の間に散るような桜には思い落とすことはしないでおこう。

 「桃」は、西王母が漢の武帝に、3000年に一度実のなる不老長寿の桃の実を献じた故事(『漢武内伝』)や、陶淵明『桃花源記』の「桃源境」の伝説から長寿の隠喩であり、「桜」は、はかなく短命であることの隠喩であろう。

西本願寺本『平兼盛集』「巻末佚名家集」
  又、三月三日、桃の花遅く侍りけるとし
110 わが宿に 今日をも知らぬ 桃の花 花もすかむはゆるさざりけり
                           (はなもすかむははゆるさらけり 本まゝ) 
 これは三月三日の上巳の節句には、往時、曲水の宴が催された際、酒に桃の花を浮かべて飲む風流韻事のあったことが念頭にあろう。古くは『万葉集』や漢詩の「題詠」に「桃花」は見られるものの、この時期に和歌に詠まれるのは、紫式部と娘に共通する、和歌史的にも特筆すべき方法だと思われる。
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