物語学の森 Blog版 「帚木」巻の新編全集校訂は方針一貫せず
「帚木」巻の新編全集校訂は方針一貫せず
2016-10-02 Sun 06:56

 新編全集の場合、「橋姫」巻の脱文については二例とも他本から補って校訂していましたが、「帚木」巻においては②の傍書があっても採用せず、新大系よりも本文量が少なくなっており、方針が一貫していません。脱文ではあるが、文章的には同内容の繰り返しとなっていて、くどい感じが拭えないので、後人傍書はここでは無視して、本行本文のみを尊重したと言うことでしょうか。
 なお、脱文は、加藤洋介氏に網羅的な研究がありますが、この巻の「目移りの脱文を先行して取り上げたのは、拙稿でした。

「〈青表紙本『源氏物語』〉伝本の本文批判とその方法論的課題 ―帚木巻における現行校訂本文の処理若干を例として」「中古文学」55号、 1995年5月
続稿「阿仏尼本「帚木」巻の宗本的性格」某報告書、諸般の事情で刊行待ち。

 今のところ、新たな伝本が出現しないかぎり、大きな異同はこの二箇所です。
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帚木 ① 左馬頭の話
 再建本文

 絶えぬ宿世浅からで、尼にもなさで尋ね取りたらんも、やがて▽その思ひ出でうらめしきふしあらざらんや。あしくもよくも▽あひ添ひて、とあらむおりもかからんきざみをも見過ぐしたらん中こそ契深くあはれならめ、われも人もうしろめたく心をかれじやは。又、なのめに移ろふ方あらむ人をうらみてけしきばみ背かん、はたおこがましかりなん。心は移ろふ方ありとも、見そめし心ざしいとおしく思はば、さる方のよすがに思ひても
現代語訳
 絶えることのない前世からの宿縁から、尼にする寸前に連れ戻したとしても――その後、そうした思いをさせたことで遺恨を残すことはありませんか。悪くも好くも、連れ添って、どんなことがあろうとも堪えてゆく夫婦仲こそ、宿縁も深く、情愛も涌いてくるというものでしょうが、一度そうした気持ちの齟齬があると、自分も相手も不安から気が許せないではありませんか。また、夫が少しばかりほかの女に浮気することがあったとしても、それを根に持って仲違いするというのも、これまた愚かしいことです。男の気持がほかの女に移ったとしても、始めの情愛を思い起こして、妻をいとおしく思うのでしたら、
▼新編全集六七⑦
 絶えぬ宿世浅からで、尼にもなさで尋ねとりたらむも、やがて▼あひ添ひて、とあらむをりもかからむきざみをも見過ぐしたらむ仲こそ、契り深くあはれならめ、我も人もうしろめたく心おかれじやは。また、なのめにうつろふ方▽あらむ人を恨みて気色ばみ背かん、はたをこがましかりなん。心はうつろふ方▽ありとも、見そめし心ざしいとほしく思はば、さる方のよすがに思ひても
現代語訳
切っても切れぬ前世からの因縁が深くて、尼にする一歩手前に連れ戻したとしても――そのまま連れ添って、どんなことがあろうともがまんしていく夫婦仲こそ宿縁も深く、情もそそられるというものでしょうが、一度そうしたことがあっては、自分も相手も不安で気が許せないではありませんか。また、夫が少しばかりほかの女に心を移すことがあっても、それを恨んで、むきになって仲違いするというのも、これまた愚かしいことでしょう。男の気持がほかの女に移ったとしても、当初の情愛を思い、妻をいじらしく思うのだったら、
▽新大系四二⑭
 絶えぬ宿世浅からで、尼にもなさで尋ね取りたらんも、やがて▽その思ひ出でうらめしきふしあらざらんや。あしくもよくも▽あひ添ひて、とあらむおりもかからんきざみをも見過ぐした らん中こそ契深くあはれならめ、われも人もうしろめたく心をかれじやは。又、なのめに移ろふ方あらむ人をうらみてけしきばみ背かん、はたおこがましかりなん。心は移ろふ方ありとも、見そめし心ざしいとおしく思はば、さる方のよすがに思ひても

明融本
―たえぬすくせあ/さからてあまにもなさてたつねとりた/らむもやかて▼あひそひてとあらむおりもか/からむきさみをもみすくしたらむ中/こそちきりふかくあはれならめわれも人も/うしろめたく心をかれしやは又なのめにう/つろふかたありとも(傍書-あらむ人をうらみてけしきはみそむかんはたをこかまし)みそめし心さしいとをし」十五ウラ

大島本
―やかてそ/のおもひいてうらめしきふしあらさらん/やあしくもよくも▼▼あひそひてとあらむ/おりもかゝらんきさみをもみすくしたらん」十四ウラ/中こと契ふかくあはれならめわれも人も/うしろめたく心をかれしやは又なのめに/うつろふかたあらむ人をうらみてけしき/はみそむかんはたおこかましかりなん心は/うつろふかたありともみそめし心さしいと/おしくおもはゝさるかたのよすかにおもひ/てもありぬへきにさやうならむたちろき」十五オモテ

阿仏尼本、天理為家本、各筆源氏

― 〈傍書-その思出うらめしきふしあらさらんやあしくもよくも〉
明融
―〈傍書-あらむ人をうらみてけしきはみそむかんはたをこかましかりなん心はうつろふ方〉 [朱]

尾張河内本
なを・たえ(12オ)」ぬすくせあさからて・あまにもなさてたつねとられても・そのおもひいて・うらめしきふし・あらさらんや。あしくもよくもあひそひて・とあらむおりも・かからんきさみをも・見すくしたらん・なかのみこそ・ちきりたえす・あはれならめ。われも・人も・うしろめ

帚木 ② 源氏、空蝉と契る
再建本文

立てて、灯はほの暗きに見たまへば、唐櫃だつ物どもを置きたれば、乱りがはしき中を分け入りたまひ▽て、けはひしつる所に入りへたまへ▽れば、ただ独りいとささやかにて臥したり。なまわづらはしけれど、上なる衣
現代語訳
几帳を襖の入口に立てて、灯はほの暗いが、その明りでごらんになりますと、唐櫃などがいくつも置いてあるので、乱雑になっている、その中をすり抜けるようにして気配のする方にお進みになると、ただ一人まこと小さくなって寝ている。女はなんだか周りが煩わしいという気がするけれども、上に掛けていた衾を男が押しのけるまで、

▼新編全集九九①
立てて、灯はほの暗きに見たまへば、唐櫃だつ物どもを置きたれば、乱りがはしき中を分け入りたま▼へれば、ただ独りいとささやかにて臥したり。なまわづらはしけれど、上なる衣
現代語訳
几帳を襖の入口に立てて、灯はほの暗いが、その明りでごらんになると、唐櫃のようなものをいくつも置いてあるので、ごたごたしている、その中を縫うようにしてお入りになると、ただ一人でほんとに小柄な感じで寝ている。女はなんだかうるさいなという気がするけれども、上に掛けていた衾を男が押しのけるまで
▼新大系六六⑩
立てて、火はほの暗きに見給へば、唐櫃だつものどもをおきたれば、乱りがはしきなかを分け入り▽給れば、けはひしつる所に入り▽給へれば、ただひとりいとささやかにて臥したり。なまわづらはしけ上なる衣

阿仏尼本
―わけいりたまひてけはひしつるところにいり給へれは
飯島本
―わけ入給へれはたゝひとりいと(傍書-けわひしつる程により給へれはたゝひとり)
日大三条西家本
―わけいり給れはけはひしつる所に入給へれ(傍書-いり給てけはひしつる所に 本)は
大島・天理為家・三条・明融・吉川・歴博本
―わけいりたまへれは
池田本、冷泉為秀本、肖柏本、正徹本、三条西家証本、大正大学本
―わけいり給て
吉川本・歴博本

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