物語学の森 Blog版 青山櫻州の長編歴史小説『夕風吹けば』と『源氏物語絵巻』
青山櫻州の長編歴史小説『夕風吹けば』と『源氏物語絵巻』
2016-08-07 Sun 05:37


 戦国時代、織田信長によって滅ぼされた小谷城の浅井長政の遺児・輝千代と乳母・更科そしてその娘で乳兄妹の美少女・八重の物語。二人の乳兄妹と信長・光秀らとの闘いを描いた「長編歴史小説」は三度名前を変え、足かけ四年に渡って掲載されました。 
 「炎の渦巻」は、明智光秀による本能寺の変に際して、輝千代が紛れ込んで信長に刃を向けたところ、焼け落ちる本能寺の炎に包まれたことを暗示したもの。さて輝千代の運命は如何に…という展開から次作は「燃ゆる夕空」となったようです。

1926年「炎の渦巻」「少女の友」19巻、12回連載、高畠華宵・画
1927年「燃ゆる夕空(「炎の渦巻」続編)」「少女の友」20巻、12回連載 高畠華宵・画
1928年8月~29年7月「夕風吹けば(燃ゆる夕空続篇)」「少女と友」21巻8号~22巻7号、玉井徳太郎・画

 21巻7月号には、青山櫻州「白鳥の塔」第七回の末尾に以下のようにあります。

-作者曰く……来月号から『夕風吹けば』といふ歴史小説を書くことになりましたから、『白鳥の塔』の方は、親友の村岡筑水先生にお願ひすることにいたします。いつまでも『白鳥の塔』をご愛読下さい

 もちろん、村岡筑水は作者の親友ではなく、分身。この『白鳥の塔』は九号に、予告は「つづく」とありながら、実質、打ち切りとなります。
 さらに続けて7月号の当該頁には以下の予告と作者の弁が掲載されています。

「少女侠勇歴史小説 夕風吹けば/青山櫻州作・高畠華宵・画」

 ところが、翌月の再開に際して、前作までの梗概の脇に、青山櫻州のお断りがあり、挿絵が高畠華宵から玉井徳太郎に変更になったことが記されています。

 輝千代の帰りを伊吹山で待つ八重は、赤い夕陽に誘われて彷徨い出たところから物語は再開されます。とりわけ、物語の中盤である1月号には、乳兄妹が「お守り」として持つ浅井長政秘伝の『源氏物語絵巻』二巻が重要な役割を持っていることが記されます(写真)。『源氏物語絵巻』の下巻は、消息不明の輝千代が託した寺に預けられており、上巻は八重が持っていたところ、偶然、八重がこの寺を訪ねて上下二巻が揃うという設定でした。

 「八重とやら。そなたは、浅井の殿さまから拝領した源氏物語の絵巻をお持ちか。絵巻の上巻にあたる品ぢや。二つの品が一対となつて集る時には、奇しき神通力が生れると伝へられた浅井氏重代の宝物ぢや」
 「はい。源氏物語絵巻、身につけてお守りいたしておりまする」
少女八重は破れた風呂敷に包んで身につけてゐた絵巻物を前にひろげた。
 「おお、これは桐壺、帚木、空蝉、夕顔の巻々…たしかに源氏物語の絵巻ぢや。今を去る二百年前、禁裏に仕へた高名の絵師の作、…天下の至宝ぢや」

 この号の巻末奥付には昭和四年正月の賀詞として、社長以下当時の社員が名を連ね、イロハ順で「岩下天年…池田芙蓉…」と見えています。池田亀鑑はペンネーム、義兄小葉は本名。亀鑑は、東大国文科の副手でもあったので、このように名乗ったものか。当時、『源氏物語』も、もちろん調査中につき、このような重要な場面で描かれているわけです。
 さらに注目すべきは「中村俊定(1900-1984)」なる名前も見えていること。俳諧研究の泰斗が若き日、編集者でもあったことをこの記事ではじめて知りました。

 
別窓 | 池田亀鑑 | コメント:0 | トラックバック:0 | top↑
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