物語学の森 Blog版 『なじかはしらねど』は『ローレライ』
『なじかはしらねど』は『ローレライ』
2016-07-06 Wed 06:03
 大正11年(1922) 、女子学習院に着任した池田亀鑑は、勤務先の生徒から想を得て生まれたと思しき作品として「少女の友」15巻に、「咲けよ白百合」(七月)「汐は満ち来る」(八月)のような現代ものも書き始めています(筆名・池田芙蓉)。
 前者は、「乳母(ばあや)」を突然失った少女・美保子が、「女中をせきたてて」、幼い頃、通い慣れた箱根に「乳母(ばあや)」の墓を訪ねて涙を流す。そこへ美保子の好きな図画の先生が現れ、「ジュピターの女神が、嬰児のハーキュリーズに乳をのませた時、その乳のほとばしりが、天に懸かつては美しい銀河となり、地に滴つては純らかな白百合となつたというギリシャの物語」をすると、美保子はまた涙を流して先生の胸に顔を埋め、「二人はしばらくだまつて立ちました。夕やみの中から、高い山百合花の香が漂うてまゐりました」と結ばれる、「乳母(ばあや)」を抱えることの出来る「良家の子女」の物語。
 後者「汐はみちくる」は、病んで安房の海辺の宿で療養する女子学生・京子が「なじかは知らねど」と歌う、少女を級友「智恵子」と見紛う。少女は「ハイネの詩」を歌ってくれたが、その後、海辺には現れなかった。やがて、東京帰りの船に彼女の姿を見つけ、孤独感に苛まれる京子の心象風景を綴っています。
 
 作中内引用の「なじかはしらねど」は、「ローレライ」の歌詞の冒頭なり。




ロ-レライ "Die Lorelei" (作詞:1824年)
  作曲:フレデリック・P・ジルヒャー (1789~1860)
  作詞:ハインリッヒ・ハイネ (1797~1856)

<日本語歌詞>  近藤朔風
1.  なじかは知らねど  心わびて
  昔の傳説(つたえ)は  いとど身に沁(し)む
  寥(わび)しく暮れゆく  ラインの流(ながれ)
  入日に山々  あかく榮(は)ゆる

2.  美(うつく)し少女(おとめ)の  巌頭(いわ)に立ちて
  黄金(こがね)の櫛とり  髪の乱れを
  梳(と)きつゝ口吟(ずさ)む  歌の聲(こえ)の
  あやしき魔力(ちから)に  魂(たま)も迷ふ

3.  こぎゆく舟びと  歌に憧れ
  岩根も見為(みや)らず  仰げばやがて
  浪間に沈むる  ひとも舟も
  神怪(くすし)き魔歌(まがうた) 謡ふローレライ

(ここは2番まで)

Die Lorelei  (Poetry:1824)

Tune by :Friedrich Philipp Silcher (1789~1860)
Lyrics by:Heinrich Heine (1797~1856)

1. Ich weiß nicht was soll es bedeuten,
  Daß ich so traurig bin;
  Ein Märchen aus alten Zeiten,
  Das kommt mir nicht aus dem Sinn.
  Die Luft ist kühl und es dunkelt,
  Und ruhig fließt der Rhein;
  Der Gipfel des Berges funkelt
  Im Abend sonnen schein.

2. Die schönste Jungfrau sitzet ,
  Dort oben wunderbar;
  Ihr goldnes Geschmeide blitzet,
  Sie kämmt ihr goldenes Haar.
  Sie kämmt es mit goldenem Kamme,
  Und singt ein Lied dabei;
  Das hat eine wundersame,
  Gewaltige Melodei.

3. Den Schiffer im kleinen Schiffe,
  Ergreift es mit wildem Weh;
  Er schaut nicht die Felsenriffe,
  Er schaut nur hinauf in die Höh.
  Ich glaube, die Wellen verschlingen,
  Am Ende Schiffer und Kahn;
  Und das hat mit ihrem Singen,
  Die Lorelei getan.
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