物語学の森 Blog版 『源氏物語』主要脱文・本文異同稿、正編その1
『源氏物語』主要脱文・本文異同稿、正編その1
2016-04-17 Sun 09:18
 昨日の報告で、主要な脱文・異同を示せとのご意見を頂いていたので、<稿「正編その1」>として示します。逐次、補訂予定。『源氏物語』全体で50箇所以上にのぼる見込みです。

 ※ 河内本諸本、別本諸本に共通して存在し、青表紙本本文に欠けている箇所を脱文・本文異同とした。
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▼=脱文・異同を補入した本文 ▽校訂によって脱文が補入されている本文
桐壺
新編全集035-03
(帝)たづねゆくまぼろしもがなつてにても魂のありかをそこと知るべく 絵に描ける楊貴妃の容貌は、いみじき絵師といへども、筆限りありければいとにほひすくなし。太液芙蓉、未央柳も、げにかよひたりし容貌を、唐めいたるよそひはうるはしうここそありけめ、なつかしうらうたげなりし▼ありさまは、をみなへしの風になびきたるよりもなよびて、撫子の露に濡れたるよりも、らうたく、なつかしかりし容貌、けはひを▼思し出づるに、花鳥の色にも音にもよそふべき方ぞなき。朝夕の言ぐさに、翼をならべ 枝をかはさむと契らせたまひしに、かなはざりける命のほどぞ尽きせずうらめしき。

河内10-15 
― 『たつねゆくまほろしもかなつてにてもたまのありかをそことしるへく』。ゑにかけるやうきひのかたちは・いみしき・ゑしといへとも・(16オ)」ふてかきりありけれは・いと・にほひすくなし。たいえきのふようも・けにかよひたりし・かたち・いろあひ・からめいたりけん・よそひは・うるわしう・けふらにこそは・ありけめ。なつかしうらうたけなりしありさまは・をみなへしの風になひきたるよりもなよひ・なてしこのつゆにぬれたるよりも・らうたく・ なつかしかりし・かたちけはひを・おほしいつるに・花とりの色にも・ねにも・よそふへき・かたそなき。あさゆふの

各筆源氏17-10
―なつかしうらうたけなりしありさまはをみなへしの風になひきたるよりもなよひなてしこの露にぬれたるよりもらうたくなつかしかりしかたちのけはひの恋しさを
陽明文庫・國冬
―おはなの風になひきたるよりもなよひなてしこのつゆにぬれたるよりもなつかしかりしかたちけはひを

帚木 ①
新編全集67-07

 絶えぬ宿世浅からで、尼にもなさで尋ねとりたらむも、▼やがてあひ添ひて、とあらむをりもかからむきざみをも見過ぐしたらむ仲こそ、契り深くあはれならめ、我も人もうしろめたく心おかれじやは。また、なのめにうつろふ方あらむ人を恨みて気色ばみ背か ん、はたをこがましかりなん。心はうつろふ方ありとも、見そめし心ざしいとほしく思はば、さる方のよすがに思ひても

新大系042-14
 絶えぬ宿世浅からで、尼にもなさで尋ね取りたらんも、やがて▽その思ひ出でうらめしきふしあらざらんや。あしくもよくも▽あひ添ひて、とあらむおりもかからんきざみをも見過ぐした らん中こそ契深くあはれならめ、われも人もうしろめたく心をかれじやは。又、なのめに移ろふ方あらむ人をうらみてけしきばみ背かん、はたおこがましかりなん。心は移ろふ方ありとも、見そめし心ざしいとおしく思はば、さる方のよすがに思ひても

明融本
阿仏尼、天理、各筆45-09
- 〈その思出うらめしきふしあらさらんやあしくもよくも-傍書〉
明融45-12
-–〈あらむ人をうらみてけしきはみそむかんはたをこかましかりなん心はうつろふ方〉 [朱]

河内27-11
なを・たえ(12オ)」ぬすくせあさからて・あまにもなさてたつねとられても・そのおもひいて・うらめしきふし・あらさらんや。あしくもよくもあひそひて・とあらむおりも・かからんきさみをも・見すくしたらん・なかのみこそ・ちきりたえす・あはれならめ。われも・人も・うしろめ

帚木 ②
新編全集099-01
帚木 ②
▼新編全集099-01

立てて、灯はほの暗きに見たまへば、唐櫃だつ物どもを置きたれば、乱りがはしき中を分け入りたま▼へれば、ただ独りいとささやかにて臥したり。なまわづらはしけれど、上なる衣

▼新大系066-10
立てて、火はほの暗きに見給へば、唐櫃だつものどもをおきたれば、乱りがはしきなかを分け入り▼給れば、けはひしつる所に入り▽給へれば、ただひとりいとささやかにて臥したり。なまわづらはしけ上なる衣


68-11阿仏尼
-わけいりたまひてけはひしつるところ にいり給へれは
飯島
―わけ入給へれはたゝひとりいと(けわひしつる程により給へれはたゝひとり)
三条西
―わけいり給れはけはひしつる所にいり給へれは〈いり給てけはひしつる所に 本〉入給へれは
為家・三条・明融・吉川・歴博
―わけいりたまへれは
池田、冷泉為秀、肖柏・正徹、証本、大正大学
―わけいり給て
為家・三条・明融・吉川・歴博
―けはひしつる所にいり給へれは-[朱筆]


10例以上

賢木
5例以上

須磨
8例以上


玉鬘
新編全集138-01
 古めかしう、かたはらいたきところのつきたまへる、さかしらにもてわづらひぬべう思す。▼ひとり見たまふにあかねば、「気色あることなのたまひそよ。いとをひらかにみたまはんや」とかねて口がため申したまへば、「気色は人の御心よく見知らね。みづからはましてなにごとをか」といと▼恥づかしきまみなり。(源氏)「古代の歌詠みは、唐衣、袂濡るるかごとこそ離れねな。まろもその列ぞかし。さらに一筋にまつはれて、いまめきたる

陽755-08※
―おほすひとりみ給にあかねはけしきあることなのたまひそよいとをひらかにみ給はんやとかねてくちかため申給へはけしきは人の御こゝろよくみしらねみつからはましてなにことをかといとはつかしき

若菜、上下
20例以上


柏木 ①
新編全集305-13
さすがに限らぬ命のほどにて、行く末遠き人は、かへりて事の乱れあり、世の人に譏らるるやうあり▽ぬべきことになん、なほ憚りぬべき」▽などのたまはせて、大殿の君に、(朱雀院)「かくなむ進みのたまふを、いまは限りのさまならば、どにても、その助けあるべきさまにてとなむ思ひたまふる」
新大系016-09
 さすがに限らぬ命のほどにて、行く末とをき人は、かへりて事の乱れあり、世の人に譏らるるやうあり▼▼ぬべき」なんどのたまはせて、おとどの君に、かくなんすすみのたまうを、いまは限りのさまならば、片時のほどにてもその助けあるべきさまにてとなん思給ふる」との給へば、「日ごろもかくなんの

註10 「世間の人に非難される事態がきっとあるにちがいなかろう。底本「ありぬへきなんと」、定家本、明融本「ありぬへきなと」、他の青表紙本、河内本、別本は多く、「ありぬへき事になん猶かゝりぬへきなと」(伏見天皇本)とある。底本・定家本・明融本は目移りによって欠文が生じたか」

1238-14横山・陽明・三条西・吉川・蓬左文庫
―ありぬへきことになんなをはゝかりぬへきなと
榊原、天理
―ありぬへきこと 〈に〉 なんはゝかりぬへきなと
肖柏・正徹・証本・大正大学
―ありぬへきことになむなをはゝかりぬへきなむと
正徹
―有ぬへきことになむ猶はゝかりぬへきとなん

 柏木 ②
新編全集340-03 
ひとつには形見と見なしたまヘど、人の思ひよらぬことなれば、いとかひなし。秋つ方になれば、この君はゐざりなど▼したまふ様の言ふよしもなうをかしげなれば、人目のみにもあらず、「まことにいとかなし」と思ひ聞こえたまひて、常に抱きもてあそび聞こえたまふ▼。

1264-13各筆・保坂・頼政筆本・穂久迩
―この君はゐいさりなとしたまふさまのいふよしもなうをかしけなれは人めのみにもあらすまことにいとかなしとおもひきこえたまひてつねにいたきもてあそひきこえ給ふ

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橋姫
2例以上

東屋
1例以上
浮舟
三例以上

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参考文献
上原作和「〈青表紙本『源氏物語』〉伝本の本文批判とその方法論的課題―帚木巻における現行校訂本文の処理若干を例として」「中古文学」55、1995年
上原作和「青表紙本『源氏物語』》原論―青表紙本系伝本の本文批判とその方法論的課題」『光源氏物語學藝史』翰林書房、2006年、初出2002年
加藤洋介「青表紙本源氏物語の目移り」『国文学』第44巻第5号1999年4月
加藤洋介「青表紙本源氏物語目移り攷」『国語国文』第70巻第8号2001年8月
加藤昌嘉「脱文もあれば独自異文もある」『揺れ動く源氏物語』勉誠出版、2011年、初出2001年
加藤昌嘉「「東屋」巻の本文揺動史」『揺れ動く源氏物語』勉誠出版、2011年、初出2005年
加藤昌嘉「改めて「浮舟」巻を読み直してみると…」『古代文学論叢 第二十輯  源氏物語 読みの現在研究と資料』武蔵野書院、2015年
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