物語学の森 Blog版 山中悠希著『堺本枕草子の研究』
山中悠希著『堺本枕草子の研究』
2016-03-13 Sun 07:50
 『人物源氏』、『光源氏と薫の世界』で精確にして、意匠を凝らした現代語訳を書いてくださった山中さんの第一論文集を拝受。
 『堺本』と言えば、『堺本枕草子本文集成』(日本書房、1988年)の林和比古(1909-1992)。『本文集成』は限定200部私家版ということで、現在も5万円超の値が付いています。この年、林先生は、明治大学で開催された中古文学会夏季大会で発表のトリを務められた。『枕草子』がまだ諸本研究の時代の話。後年、会員購読していた古典文庫に『堺本枕草子-班山文庫本』(1996年)が収められ、これも今では稀覯本。

 さて、山中さんの本。「類纂本」系統の一本とされる堺本と前田家本の本文と章段構成を一から問い直し、『枕草子』の古態を保存するという原態論・生成論に対し、特に「堺本」に「『再構成本』という新しい視点を導入」することを企図したものとあります。序章と論文11本を擁して、『堺本枕草子』は、『枕草子』テクストの「再構成本」であると言う事実を徹底して突き詰めてゆく地道な作業の分析結果を集成したもの。まこと頭の下がる労作です。

 ただし、この本が「新しい視点」かと言うと、現存雑纂本から類纂形態に編集されたと言う説はすでに広く知られているところであり、旧来の類纂本研究のアウトラインと相違しないように思われるので、享受史からすると、「新しい視点」と言う認識には疑問符が付きます。いっぽう、かつて、雑纂本と類纂本本文を「優位/劣位」の関係で論じる傾向にあったのに対し、堺本テクストの独自性を徹底的に洗い出した点は重要。「優位/劣位」は、平安朝文学のいずれの諸本研究でもこの視点で論じられていたかつての分析方法のひとつだったので、時代的な潮流であったことになります。
 『枕草子』研究も、定番・角川文庫や新編全集のみならず、『源氏物語』研究と同様、諸本を視野に入れた研究が必要と言うことになり、このことは近々研究動向の大きな潮流になろうかと思われます。
 
 もうひとつ、初出時点から気になっていたのは第一章の副題「展開性」の「…性」の違和感。結論からして「展開の独自性」で良いように思います。
 以上、思いつくまま、記しました。『枕草子』研究必備の書。ぜひ堺本の注釈書もお願いしたいところです。ありがとうございました。

参考・拙稿「清少納言の末裔――「こまがさうし」の読者圏」小森潔、津島知明編『枕草子 創造と新生』翰林書房,2011.5.25刊行…類纂形態に『源氏物語』の類書的テクスト『仙源抄』のような時代的志向性を示唆したことがあります。興味のある方はご一読下さい。
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