物語学の森 Blog版  『虞美人草』作中漢詩の「垂楊」は琴曲「折楊曲」のこと。
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 『虞美人草』作中漢詩の「垂楊」は琴曲「折楊曲」のこと。
   『虞美人草』所収 明治四十年(1907)の甲野欣吾の作中漢詩に以下のようにあります。

一奩楼閣雨  一奩(いちれん)楼閣の雨     一奩=化粧箱のように美しい
閑殺古今人  閑殺す 古今の人 閑殺=閑寂な境遇
忽聴弾琴響  忽ち聴く 弾琴の響き 忽聴弾琴=どこからか琴の音が聞こえてきた
垂楊惹恨新  垂楊 恨みを惹いて新たなり  

垂楊=琴曲「折楊柳」。旅の無事を祈って知友が遠方に旅立つ時には城外まで見送り、水辺の柳の枝を折り、環の形に結んで贈った故事による。「環」は「還」に通じ、旅人の無事帰還を祈る意味と解されている。盛唐・王翰「涼州詞」「葡萄美酒夜光の杯 飲まんと欲して琵琶馬上に催す 酔ひて沙場に臥すとも君笑ふこと莫かれ 古来征戦幾人か回る 秦中の花鳥巳に應に闌なるべし 塞外風沙の猶自ら寒し 夜、胡笳・折楊柳を聞く 人の意気長安を憶はしめん」には「胡笳」とともに「戦さ」を表象する常套的詩語として「折楊柳」が用いられている。日本では魂結びの俗信となり、旅人が疲れて魂を失散させないようとする意がある。

 ところが従来説の「垂楊」については、典拠として琴曲を認めない曖昧な解釈もあるようです。

「美しい高どのに降る雨は、この京の都の古人今人を静けさの中に閉じ込める。ふと聞こえる琴の音。窓外のしだれ柳は恨むがごとき風情で芽吹き、緑の糸をたれている。」伊藤整, 荒正人編『漱石文学全集』第3巻、集英社、1983年

 これでは意味が通りません。
                   
2015-12-10 Thu 10:13
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