2015-10-16 Fri 07:00
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とりあえず、昨日の「いたいけ/幼気・痛気」説はボータルにも掲示して、研鑽の一助としてもらう。本来、和語としては「らういたし」から展開した語彙であろうという見通しがありますが、論証した文献も『源氏物語』を中心として十数本あるようです。このうち、とりわけ必読論文としては三本をあげておきます。中世以降、語義が変容して死語となる過程も面白い。
○大塚旦「源氏物語の「うつくし」と「らうたし」「平安文学研究」11巻 1953年 1月 ○松村誠一源氏物語の「らうたし」「国語と国文学」42-6 1965月6月」 ○梅野きみ子「紫の上のパワーの秘密―「らうたし」「らうたげ」と「らうらうじ」から」 『源氏物語の展望』第3輯、2008年3月 ----------------------- (1)(「労(ろう)いたし」の変化した語)こちらが何かと世話をしていたわってやりたい気持にかられる。また、そういう気持にさせるようなありさまである。可憐でいとおしい。姿やしぐさやたたずまいなどが、弱々しくいじらしい。 *大和物語〔947〜957頃〕六四「この妻(め)にしたがふにやありけん、らうたしと思ひながら、之留めず」 *蜻蛉日記〔974頃〕中・天祿元年「これがいとらうたく舞ひつること語りになむものしつる」 *宇津保物語〔970〜999頃〕菊の宴「らうたしと思ひし子をも失ひてしかば」 *源氏物語〔1001〜14頃〕宿木「むかしよりは、すこし細やぎて、あてに、らうたかりつるけはひなどは」 *今昔物語集〔1120頃か〕一四・四「帝王、其の女を召て、一夜、懐抱し給ひにけるに、労たくや思し食けむ」 (2)和歌・連歌などで、心深く、艷で美しい。 *ささめごと〔1463〜64頃〕上「古人の句は歌の面影そひぬる故に、しな、ゆう、たけ、らうたく言はぬ心見え侍り」 (3)(「ろう」を「ろうたける」の「臈」と意識してできた語か)洗練された美しさがある。上品ですきとおるように美 しい。 *春鳥集〔1905〕〈蒲原有明〉束の間なりき「貴なるかげや、臈(ラフ)たき」 *海潮音〔1905〕〈上田敏訳〉花くらべ「〓イナス神の息よりも、なほ臈(ラフ)たくもありながら」 補注 シク活用の「うつくし」が、特に弱々しさという限定をつけず、愛情を感じる対象、美を感じる対象を賛美する心情表現の語であるのに対して、ク活用の「らうたし」は、いつくしみの感情を起こさせる、弱々しく痛々しい、または、いじらしいものの可憐な状態を表わす属性表現の語である。 『新編日本国語大辞典』 |
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