物語学の森 Blog版 琴は弾きながら歌う。
琴は弾きながら歌う。
2014-09-12 Fri 06:01



  次の稽古までの宿題は、「関山月」と「陽関三畳」を、琴(きん)を弾きながら謳うこと。琴曲「関山月」は李白の七言律詩の曲。一番を謳いながら、二番を楽器のみで演奏しています(ただし、現在は琴のみで演奏する場合が多い)。

明月出天山、蒼茫雲海間。
長風幾萬里、吹度玉門關。
漢下白登道、胡窺青海灣。
由來征戰地、不見有人還。
戍客望邊色、思歸多苦顏。
高樓當此夜、歎息未應閑。



 琴曲『陽関三畳』は王維の「送元二使安西」がモチーフ。楽譜にもよりますが、『琴曲入門』では、まず、琴のみで二回リフレイン、最後に琴を弾きながら歌います。

渭城朝雨潤輕塵
客舎青青柳色新
勧君更盡一杯酒
西出陽關無故人


 日本の古典では、「琴にて」「琵琶にて」とあって、和歌を弾きながら謳っています。琴の場合は、浦上玉堂が『万葉集』を謳っていたことが知られていますが、それを遡る和歌の歌詞付の楽譜は存在しないので(漢詩は東皐心越の『東皐琴譜』がある)、先学の注解も琴学に照らして見ると、かなり危なっかしい、手探りのものということになります。『源氏物語』須磨の名場面では「弾きさしたまひて」。唐渡りの曲間に和歌を詠んだものと解せます。

 琴をすこしかき鳴らしたまへるが、我ながらいとすごう聞こゆれば、弾きさしたまひて
  「恋ひわびて泣く音にまがふ浦波は思ふ方より風や吹くらむ」
 と歌ひたまへるに、人びとおどろきて、めでたうおぼゆるに、忍ばれで、あいなう起きゐつつ、鼻を忍びやかにかみわたす。

 笛の場合は、笛のみ、朗詠、そしてまた笛というような構成だったのでしょうか、このあたりはさらに調べてみます。
 いずれにせよ、「琴にて…和歌…」の場合、これを「無言の交響」とする論文がありましたが、琴学史等の隣接科学の常識に照らして、噴飯ものの失考ということになります。はっきり書いてごめんなさい。しかし、誤解が流布することもまた問題だと考えました。



『源氏物語』前後左右
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