物語学の森 Blog版

このBlogは、私が物語研究の途上で出会った様々な発見や、物語をともに学ぶ人々との出逢いを綴ったものです。ごらんのみなさんにも物語文学の深遠なる森の如き世界の一端をお知りいただければ幸いです。

畠山大二郎著 『平安朝の文学と装束』




 畠山大二郎さんから、学位論文の公刊となる『平安朝の文学と装束』拝受。ありがとうございました。噂の「装束生地見本」は、手触りや質感のみならず、本文中の自説の補強として、圧倒的な説得力を持っています。カバーは洋書風に英文を黒で装い、章立てのデザインにも凝った瀟洒な一冊。さっそく、永久保存に堪え得るよう、本体、生地見本共に透明カバーを掛けました。本文中の写真、図版も豊富、撮影は杉並に寝殿造の面影を宿す大宮八幡宮、後輩のモデルさんたちは平安朝スタイル復原のために眉まで剃って臨んでおられます。

 本文中に描き込まれた装束の意味を、丹念に解き明かし、人物造型に重要な意味を持つことを証明するための図版と生地見本が有効。『紫式部日記』の装束については、生地見本、写真図版と本文を何度も往還しながら読み進め、その実態がイメージとして浮かび上がりました。装束に関する本は何冊か読みましたが、本書の説得力に優る本はありません。畠山さんの論文のひとつは偶然の機会から、真剣勝負で精読し、卑見を申し上げたことがありました。特に同時代史料の宝庫、『歌合日記』等の文献は初出論文からさらに枝分かれして、他の章段に生かされており、博士論文の内容構成を支えている重要な論拠として結実していることを知ることが出来ました。

 また、こうした充実した専門書を若い人が出せるのは、「課程博士論文出版助成金」制度の國學院大学大学院の全面バックアップも大きい。大学院が本気で研究者を売り出そうという気概と、博士論文の充実とがマッチした結果であると思います。博士論文提出には内規として高いハードルがあるとのことですが、その条件をクリアしての学位ですから、他大学にはなかなか真似できないところ。
 前日、畠山さんも寄稿した『物語文学論究』14号(2016年3月14日刊行)國學院大學物語文学研究会も拝受しました。気鋭の研究者を輩出した45年を誇る名門研究会、当然の事ながら、ここでも討議が、畠山さんを鍛え、前人未発の方向性をもたらしたことが分かります。ただし、論文引用が、同学、研究会同人に偏りがちなことと、叢書の校訂本文に全面的に依拠していて、異文の参照が乏しいことは、新説が続出してる本書にとって、むしろ障害となるところもあるのではないか、と気になりましたので、ここに記します。もちろん、『紫式部日記』論文では、校訂本文の読点にすらこだわっておられ、丁寧な目配りのあることも確かではあります。

 その昔、学部生時代から『うつほ物語』の研究会に参加された畠山さん、当時はパンク系の風貌、「大学院入試の面接にピアスは困る」みたいなことをご指導の先生が仰っていましたが、そのポリシーは、平安時代の服飾文学と言う独自の研究領域の開拓に繋がったと言うことでしょう(面接時、耳に光るものは無かったと、新年度あけに窺いました)。
 御上梓と新たなる出発、おめでとうございます。

 


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風雲の志―幕末維新を生きた志士たちの言葉・展




  図書館に本を返却しに行ったところ、図書館企画展に間に合うことが分かり、あらあら展観。 ポスターまで頂いてきました。4月27日までに時間を作って再訪したいと思います。
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横浜港クルージング




  若い旅人を迎えて、横浜中華街でランチ、近代文学館で漱石展。最後に横浜港シーバスクルージング。次回はマリンシャトルで横浜ベイブリッジを潜りたい!
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豊島秀範研究代表『『狭衣物語』「蓮空本」(巻一)の本文と注釈』

 大学院の演習成果、豊島秀範研究代表・編集作成神田久義・畠山大二郎『『狭衣物語』「蓮空本」(巻一)の本文と注釈』拝受。ありがとうございました。大学院の演習は、本文校訂、註釈、現代語訳、自由研究、つまり、訓詁註釈學がベース。これを公刊できる内容にするには、熱心な指導が必要。頭が下がります。

 『狭衣物語』は内閣文庫本(大系)、東京教育大学藏本(集成)、深川本、平出本(新編全集)、深川本、内閣文庫本(全註釈)と諸本に註釈がありますが、これに蓮空本が完結すると、研究環境は『源氏物語』より整っていることになります。

 『伊勢物語』なら狩使本、『源氏物語』なら別本の註釈があって良いように思います。前者は、考証による復原、後者は54帖揃いの完本がないけれども、この底本選定も校注者の腕の見せ所。ともあれ、考えてみることとします。
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『伊勢物語』武蔵野関係名所地図

みよし野関係図
武蔵野河川図

 昔男と藤原長勝の娘の野火止逃避行譚は、江戸時代に創作された伝承でしょうが、地理感覚を頭に入れるために河川図を作ってみました。藤原長勝の館城の至近は東武東上線の柳瀬川駅。『とはずがたり』に見える「みよし野の里=吉田」の至近は、霞ヶ関駅。距離は15.5㌔。黒目川沿いの東久留米・篠宮家文書にも業平伝承があり、業平が笠を懸けたと言う「笠懸松」もかつてあった由。河川沿いであることが伝承創作の理路であるようです。
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妙音沢 ハタザクラ




午前中の小雨もやんだところで、近所の妙音沢に降りてみました。ハタザクラのみ三分咲きと言ったところ。志木の長勝院旗桜も気になり始めました。こちらは、定家本『伊勢物語』十段の「母なむ藤原なりける」の主・藤原長勝邸にちなむ命名。

むかし、男、武蔵の国までまどひありきけり。さてその国にある女をよばひけり。父はこと人にあはせむといひけるを、母なむあてなる人に心つけたりける。父はなほびとにて、母なむ藤原なりける。さてなむあてなる人にと思ひける。このむこがねによみておこせたりける。住む所なむ入間の郡み吉野の里なりける。
  みよし野の たのむの雁も ひたぶるに 君が方にぞ 寄ると鳴くなる
むこがね、返し、
  わが方に 寄ると鳴くなる みよし野の たのむの雁を いつか忘れむ
となむ。人の国にても、なほかゝることなむやまざりける。
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慶長15年閏2月9日(1610) 仙石秀久、佐藤織部に佐久郡発地の地を給す。

「軽井沢 宿本陣佐藤家文書」 92

  為知行被下分之事
一百五拾貫文  發地組之内
 右令支配畢去年
 物成より被下候條
 全可領知者也
 
慶長拾五年
 閏二月九日   秀久 押印
    佐藤織部殿 

 蔵書のひとつ 『軽井澤町志-歴史篇』( 軽井沢町志編纂委員会、1954年)の「口絵」の筆頭にあげられている著名な文書ながら、翻刻はなく、難渋していたところ、長野県立歴史館『信濃史料-補遺篇』下巻の該当記事に行き当たりました。
 仙石秀久(1552-1614)の生涯がまさに波瀾万丈。戦国の世をたくましく生き抜いた人。その戦国武将から賜った地が、現在の軽井沢町大字発地。軽井沢プリンスホテル南、国道18号線が目印となります。一月のバス事故の地も旧・発地地区。本陣佐藤家のひとりがこの地を継承(前町長さんの家)。300年後の幕末明治、大正、昭和を生きた佐藤嘉藤治の長男・作十郎(1847-1936)が、明治14年(1881)、上原菊次郎の養子となり、佐久郡中佐都村にやってきたことから、我が家の歴史が始まるということでしょう。

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池田亀鑑「古典解説シリーズ 14 枕草子」アテネ文庫

 「古典解説シリーズ 14 枕草子」(弘文堂、アテネ文庫、1955年)を入手。
 先日、書き留めた、「五月ばかりなどに、山里にありく」の段で池田亀鑑が紹介していた異文は「かかへたる」でした(訂正済み)。

 五月ばかりなどに、山里にありく、いとをかし。草葉も水もいと青く見えわたりたるに、上はつれなくて草生ひ茂りたるを、ながながとただざまに行けば、下はえならざりける水の、深くはあらねど、人などの歩むに、走りあがりたる、いとをかし。
 左右にある垣にある、ものの枝などに、車のやかたなどにさし入るを、急ぎてとらへて、折らんとするほどに、ふと過ぎてはづれたるこそ、いと口惜しけれ。蓬の、車に押しおしひしがれたりけるに、輪のまはりたるに、近ううちかかかへたるもをかし。(三巻本二〇八段)


 「かかへたる」に関して、「ほのかに香のただよつたのも」と解釈しています。これは、前田家本、堺本、さらに能因本の「近うかけたるも、香のかかへたるも、いとをかし」が念頭にあったもの。今日の本文批判のように、他系統の本文を混ぜないのではなく、諸本本文を統合する方法だということになります。『枕草子』の場合、三巻本本文だけで読むことは極めて困難。校合の匙加減をどうするか、その一点に、戦後の『枕草子』研究史が存在したとも言えるわけです。
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萩谷朴「『伊勢物語』の作者は紀貫之なるべし」「『伊勢物語』作者貫之説補考」

 先日頂いた『伊勢物語の新世界』でも、渡辺泰宏さんが作者・紀貫之説を検証されています。この説は折口信夫以来、唱えられていますが、萩谷先生の最後の学術論文でもこのことを摂関政治史と業平と言う観点から論じておられます。以前、編者のひとり妹尾先生が触れておられたけれども、参照されることも少ない論文なので、便利になったところでご参考までに。

 「『伊勢物語』の作者は紀貫之なるべし」2003年2月

『伊勢物語』作者貫之説補考」2004年2月


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妹尾好信・渡辺泰宏・久下裕利編『知の遺産シリーズ② 伊勢物語の新世界』

 知の遺産シリーズ② 伊勢物語の新世界拝領。いつもありがとうございます。秋に出版した『竹取物語の新世界』も好セールスの由。ぜひ御高架をお願いします。

 日大文理学部で物語研究会例会。盛会。帰りがけ、某氏が文学理論の大切さを熱く語っていました。このところ、刺激のある化学反応が出ていないように思っているので、率直に申し上げたら、この熱気。この一年また期待しておきます。ただし、『源氏物語』も『枕草子』もまだまだ分からないことだらけ。基礎研究のリサーチも怠りなくお願いしたい。
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