物語学の森 Blog版

このBlogは、私が物語研究の途上で出会った様々な発見や、物語をともに学ぶ人々との出逢いを綴ったものです。ごらんのみなさんにも物語文学の深遠なる森の如き世界の一端をお知りいただければ幸いです。

国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」

 先週、伊藤先生から、『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』を拝受。

 影印の下に翻刻。字母表記を生かすと言う「変体仮名翻字版」とっなています。これは、松尾聡「校異源氏」夢物語」『天理図書館善本叢書 月報38』(八木書店、1978年1月)を意識なさったとのことで、確かに本文批判の際に、字形の相似による本文転化を見つけやすいことは確かです。三部作を学界に廉価でお披露目してくださったことに感謝します。
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頭のチャンネル切り替えて


 待ちに待った科研助成出版のゲラが届きました。約500頁、父の形見の虫眼鏡も活躍します。目の治療はちと先送り。萩谷先生の晩年も白内障と闘いながらの執筆でしたが、治療は残りの仕事全部終えてから、といつも仰っていた。不便この上ないが、二月にはかたちにしないといけない。ゲラを抱えているのにもかかわらず、目の治療でブランクをつくるのは厳しい気もしています。
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ようやく『長州ファイブ』

 ようやく『長州ファイブ』を視聴。
佐久間象山に感化された、のちの長州五傑(長州ファイブ-井上聞多(井上馨)、遠藤謹助、山尾庸三、伊藤俊輔(伊藤博文)、野村弥吉(井上勝))が、幕末に長州藩から派遣されてヨーロッパに極秘留学した史実を描いたもの。すでに杉孫七郎はこれに先駆けて密航していますから、ある程度の情報はあったのでしょうが、のちの近代日本の礎を築いた青年達の話、惹き付けられました。
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「告老」-まだまだ知らないことばかり

 先日の学会報告で気になっていたところを復習。『発心和歌集』「真名序」のご質問にあった「告老」は指摘の通り、退職して故郷に帰る、とか退職する、の意で、「致仕」に相当するようです。

告老 gàolǎo [retire from age] 封建时代臣子或官員因年老辞去、職務后泛指年老退休
 冬十月晋韓献子告老。《『春秋左傳』·襄公七年》             『詩語解釈』  

 この作品に関しては、ご発表も拝聴したことがありました。もちろん、従来説の選子作者説に立ってのものでしたが、「真名序」の註釈もしてみたい。論文も再度、読み直します。
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路面電車の街・広島




 学会出席のため、広島へ。人生50年、岡山以西は未訪の地。新幹線で四時間、東京まで足を運んで来られる研究者はそれだけのエネルギーを費やしても欲しい情報があるということなのでしょう。南口には新旧の路面電車が走っています。夏に見たドラマの記憶も鮮明によみがえりました。
 シンポジゥムは、講演、報告共に一言一句を聴き逃すまいと、ギャラクシーに詰め込んだデータを睨みつつ拝聴。講演者の御本は丹念に何度も読み込みましたが、今回はテーマに即して関連人物の情報もハンドアウトにして下さったので、永久保存版とします。江戸時代に編纂された『萩藩閥閲録』所収の「吉見家文書」の所蔵先も複数お示しいただき、未見のものはいずれ閲覧に行きます。
 また、吉見正頼、大野毛利家までの毛利家傍流の家の歴史もお示しいただきました。この家の重臣にドラマ「花燃ゆ」の杉家があり、一門の杉孫七郎は、毛利家典籍から、大内氏関係の詠草、消息を剥ぎ取り、手鑑「多々良の麻左古」を作成しています。江戸時代には典籍目録も、江戸と長州の二種類があり、『源氏物語』も数種所蔵が確認できます。明治に入って、毛利家典籍が流出し始めたことは確かなようです。
 書誌学の立場から大島本『源氏物語』研究の成果報告は、いずれ予定している拙著に反映させたいと思います。大島本本文の親本は、書誌学上は「関屋」巻が大内氏所望の飛鳥井雅康染筆本であることしか特定不能と言うこと。ただし、本文批判の成果によって、「柏木」巻の「ぬへき」の目移りによる脱文が、定家本、明融本、大島本三本にのみ共通することから、その本文に定家本との親近性が認められると言う、複雑かつ極めて重要な要素(本文価値)を整理しながら読んでゆく必要があります。

『新編全集』定家本校訂本文
305-14 の乱れあり、世の人に譏らるるやうありぬべきことになん、
305-15 なほ憚りぬべき」などのたまはせて、大殿の君に、(朱雀院)「か
306-01 くなむ進みのたまふを、いまは限りのさまならば、片時のほ
『新大系』大島本校訂本文
016-09 を、さすがに限らぬ命のほどにて、行く末とをき人は、かへりて事の乱れあ
016-10 り、世の人に譏らるるやうありぬべき」なんどのたまはせて、おとどの君に、
016-11 かくなんすすみのたまうを、いまは限りのさまならば、片時のほどにてもそ
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池田『大成』定家本翻刻本文
1238-13 さすかにかきらぬいのちのほとにてゆくすゑとをき人はかへりてことのみたれ
1238-14 あり世の人にそしらるるやうありぬへきなとの給はせておととの君にかくなむ
1239-01 すすみのたまふをいまはかきりのさまならはかた時のほとにてもそのたすけある
明融本翻刻本文
らはいとたうときことなるをさすかにかきらぬ
いのちのほとにてゆくすゑとをき人はかへりて
ことのみたれあり世の人にそしらるゝやうあり
ぬへきなとの給はせておとゝの君にかくなむ
すゝみのたまふをいまはかきりのさまならは
かた時のほとにてもそのたすけあるへきさ
まにてとなむ思たまふるとのたまへはひころも」17ウ

 これに、大島本の場合は、大内家旧蔵一条尋尊書入注記のある兼良ゆかりの河内本本文が校合書入された後、抹消され、注記は吉見家の家人に手分けして転記されました。このことは、本文様態、奥書からも類推されることです。実は、今まであまり読み込まれていない本文傍注、音楽関係注記については、すでに報告しました。気になる方はどうぞ。
 さまざまな学恩を得た広島でした。関係各位のみなさん、ご苦労様でした。また、ありがとうございました。
 

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霊前に献呈

[古記録文化論装幀]

 一周忌を前に、完成した本を持って霊前に献呈。肩の荷が少し軽くなりました。

学会シーズン、以下の本も頂戴しました。

 『王朝文学と東ユーラシア
 『日本「文」学史
 
 ぜひ御高架をお願いします。
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紅葉始まる信州




 日曜日、小諸懐古園脇の水車で蕎麦を食す。頗る美味。隣に司馬遼太郎『街道を行く』に取り上げられた老舗があるけれど、司馬さんにも書かれた、接客に難がある点、ボクも以前、何十年も変わっていないと確信したので、あえて避ける。帰りに休耕となっている我が家の所有地に立ち寄る。浅間山と八ヶ岳が見渡せる絶景の地。活用法は未定。午後には、軽井沢文学館に向かう。園内堀辰雄別荘では、神話と星座と虫の名の特別展示中。右は野上弥生子別荘。茶室も備えた質素なつくり。思索の空間と言うべきか。


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「竹取物語の新世界ー知の遺産シリーズ1」


  学会前に完成。力作が並びました。執筆者のみなさん、ありがとうございます。廉価3000円+税 です。御架をお願いします。
 目次
文学史上の『竹取物語』/上原 作和
かぐや姫と竹取翁/曽根 誠一
かぐや姫と求婚譚/久下 裕利
五人の求婚者たちと難題/大井田晴彦
帝の求婚とかぐや姫の昇天/上原 作和
勅使少将と頭中将の役割/久下 裕利
『竹取物語』の仏教・神仙思想/久保 堅一
かぐや姫と月の「清光」―『竹取物語』の基層―/後藤 幸良
『竹取物語』の絵画の世界/曽根 誠一
『竹取物語』―研究の現在と展望(二〇〇〇年以降の研究文献目録付載)/東  望歩
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機関誌編集卒業




 二年任期の機関誌編集担当、納品完了で無事卒業。引継書類も京都市上京区宛てに送りました。新入会員見込み8部計算で刷ったため、残部はありません。大学図書館等にも発送されますから、そちらでご閲覧下さい。
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「らうたし」の死語化と展開

 とりあえず、昨日の「いたいけ/幼気・痛気」説はボータルにも掲示して、研鑽の一助としてもらう。本来、和語としては「らういたし」から展開した語彙であろうという見通しがありますが、論証した文献も『源氏物語』を中心として十数本あるようです。このうち、とりわけ必読論文としては三本をあげておきます。中世以降、語義が変容して死語となる過程も面白い。

○大塚旦「源氏物語の「うつくし」と「らうたし」「平安文学研究」11巻 1953年 1月
○松村誠一源氏物語の「らうたし」「国語と国文学」42-6 1965月6月」
○梅野きみ子「紫の上のパワーの秘密―「らうたし」「らうたげ」と「らうらうじ」から」 『源氏物語の展望』第3輯、2008年3月
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(1)(「労(ろう)いたし」の変化した語)こちらが何かと世話をしていたわってやりたい気持にかられる。また、そういう気持にさせるようなありさまである。可憐でいとおしい。姿やしぐさやたたずまいなどが、弱々しくいじらしい。
*大和物語〔947〜957頃〕六四「この妻(め)にしたがふにやありけん、らうたしと思ひながら、之留めず」
*蜻蛉日記〔974頃〕中・天祿元年「これがいとらうたく舞ひつること語りになむものしつる」
*宇津保物語〔970〜999頃〕菊の宴「らうたしと思ひし子をも失ひてしかば」
*源氏物語〔1001〜14頃〕宿木「むかしよりは、すこし細やぎて、あてに、らうたかりつるけはひなどは」
*今昔物語集〔1120頃か〕一四・四「帝王、其の女を召て、一夜、懐抱し給ひにけるに、労たくや思し食けむ」

(2)和歌・連歌などで、心深く、艷で美しい。
*ささめごと〔1463〜64頃〕上「古人の句は歌の面影そひぬる故に、しな、ゆう、たけ、らうたく言はぬ心見え侍り」

(3)(「ろう」を「ろうたける」の「臈」と意識してできた語か)洗練された美しさがある。上品ですきとおるように美
しい。
*春鳥集〔1905〕〈蒲原有明〉束の間なりき「貴なるかげや、臈(ラフ)たき」
*海潮音〔1905〕〈上田敏訳〉花くらべ「〓イナス神の息よりも、なほ臈(ラフ)たくもありながら」

補注
シク活用の「うつくし」が、特に弱々しさという限定をつけず、愛情を感じる対象、美を感じる対象を賛美する心情表現の語であるのに対して、ク活用の「らうたし」は、いつくしみの感情を起こさせる、弱々しく痛々しい、または、いじらしいものの可憐な状態を表わす属性表現の語である。                  『新編日本国語大辞典』
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