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2014年08月02日 | Page 1 | 物語学の森 Blog版

『本を読む女』の池田先生

 増尾さんの『万葉歌人と中国思想』の「跋」は以下のように書き出されます。
 
 高校二年の夏、学校帰りにいつも立ちよった、甲府市内の書店の新刊書の棚に、中西進『山上憶良』(一九七三年、河出書房新社)の大冊があった。…翌春に刊行された高木市之助『貧窮問答歌の論』(一九七四年、岩波書店)もまた難解だったが、…この二冊に接したことが、本書に収めた論稿を書く端緒になった、と思う。

 この本屋さんは中沢新一も通ったという有名な書店で、後日、小説やドラマ「夢見る葡萄」にもなっています。この本の著者も時には店番をしていたこともあったと増尾さんからお聞きしました。

 
本を読む女 (新潮文庫)本を読む女 (新潮文庫)
(1993/03/02)
林 真理子

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 大正四年(1915)甲府生まれの主人公・万亀は、「赤い鳥」を愛読する文学少女。成績優秀につき、いくつか候補のあった中で、山梨高女の校長の薦めが決め手となり、開設間もない東京の女子専門学校に進学します。

 授業は院長自ら講義する家政概論の他、料理実習、衣類整理、和洋裁など、家政学が主だったが、心理学、倫理学、経済学、国文学なども組み入れられていた。帝大の一流の教授たちが教壇に立つこれらの講義は、万亀にとって待ち遠しくてたまらないものである。
 特に文学博士の池田先生の「源氏物語」は、希望すれば一般の社会人も聴講することができ、真摯な雰囲気がみなぎっていた。
 こういう時、万亀はいちばん前の席に座り、先生の口元をじっと見つめる。口角の下がった平凡な老人の唇が「御息所」「帝のおんときに」などいう言葉を発する時には、実に優雅な動き方をするのだ。
 一日中、こんな言葉ばかり聞けたら、どれほど幸せだろうかと思う。 「放浪記」

 調べてみると、池田亀鑑(1896-1956)が東京家政学院の教授となったのは昭和九年(1934-38歳)。主人公は19歳。院長・大江スミも村岡花子と同じく、東洋英和女学校の出身で、母校の教壇にも立っています。
 池田亀鑑が文学博士になるのは戦後(1948)のことだし、38歳を老人とは言わないので、小説的な脚色もあるようだけれども、当時の雰囲気や、女学生の興味を惹きつける講義内容だったことは、紫式部学会の記事等からよく知られています。こうした平和な時代も戦争によって引き裂かれ、主人公の運命も翻弄される。そしてたどり着いたのは好きな本に囲まれる生活だった、ということになるのでしょうか。人生とは、…ほんとうに不思議である
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上原 作和

Author:上原 作和
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