物語学の森 Blog版

このBlogは、私が物語研究の途上で出会った様々な発見や、物語をともに学ぶ人々との出逢いを綴ったものです。ごらんのみなさんにも物語文学の深遠なる森の如き世界の一端をお知りいただければ幸いです。

吉兆のゆくえ。




 早朝、旧宅の駐車場に子どもの蛇を見つけました。蛇は吉兆の証だというけれど、スロット形式のガソリンスタンドの料金が三並びで当たり籤、リットルあたり一円の割引となりました。
 多忙な時期の「うつほ物語」の輪読資料を作りながら、次の論文の構想も湧きました。

 そして「中古文学」の卑説批判の久保木論文。いくつも誤読があると指摘されていますが、さにあらず、これは上原説の補強といえます。上原説を批判したり、無視した論文こそが否定され、部分的修正が必要となったに過ぎないのです。とりわけ、高木文の蔵書印の問題は、蓋然性の高い推論ではあっても解明されたわけではありませんし、むしろ、伝本の伝承系譜は「伏見宮→紀州徳川家→高木文→東洋大学」となり、結果的に同じであるのもかかわらず、これを誤りと記し、東洋大学本と紀州徳川家本とを別の本と考えていた説に対する筆法とは異なる態度であるといえます。言うまでもないことですが、客観的立場で対立した説を論定すべきで、職場的な身内の庇い合いといわれても仕方ありません。
 また、新紹介の「書物展望」には未刊行に終わった校訂叢書本の存在も示されていますが、時系列的にたどれば、これを前提としての立論はできません。紀州家本を調査していた博士とは、『万葉集大成』を手掛けていた武田祐吉であり、実質的には三谷榮一先生のことでしょう。この本は三谷氏の仲介によって山岸徳平も校合本を作成しています。その原本であった武田校合本は全54帖が校合してあったと云いますから、欠本の巻だけが調査されたかに読める高木文の回想録とは合致しないところがあります。紀州家本を底本とし、「校訂しての刊行」本はもちろん日の目を見ていませんが、久保木論文で初めて明かされた新情報。おそらく紀州家本が散逸して全体像が復原不可能になったので、頓挫したのかもしれません。よって、校異本文として、島津「講話」、山岸「大系」に採用された訳です。だから、この校異本文の存する「桐壺」「橋姫」「早蕨」「宿木」各巻は、どこかに眠っているかもしれませんね。いやいや、もしかしたら武田校合本もあるいは見つかるかもしれません。

 蛇足ですが、当方もモデイさんが時計の蒐集家であったことは一応把握していました。

 この夏、この本をもとに「紀州家売り立て目録」を調査する予定だったのですが、久保木論文によって、むしろ、昭和四十年代に絞って進め、あらたに論文を書くことのほうが有効のような気がしてきました。つまり、東洋大学に入る以前の売り立てのことです。さてこれを、どこで公表しようかな。
 この間、「おまえはへばっているな」と先輩研究者から気合いを入れられましたが、この二日ですっかり復活。蛇よ、ありがとう。

 
 
売立目録の書誌と全国所在一覧売立目録の書誌と全国所在一覧
(2001/11)
都守 淳夫

商品詳細を見る
別窓 | 高木文 | コメント:0 | トラックバック:0 | ∧top | under∨

二大政党にあらず?。

茶の湯名言集  ビギナーズ 日本の思想 (角川ソフィア文庫 G 1-8 ビギナーズ日本の思想)茶の湯名言集 ビギナーズ 日本の思想 (角川ソフィア文庫 G 1-8 ビギナーズ日本の思想)
(2010/06/25)
田中 仙堂

商品詳細を見る


 ビギナーズの日本思想シリーズ。箴言のひとつひとつが重厚です。
 
 湿気の多い土曜日、モノレール、小田急、相鉄線と乗り継いで一時間半以上かかってフェリス女学院で日本文学協会大会。ライバル学会の編集を務める故、勉強も兼ねて。ただし、「国文学界は二大政党の学会が頑張らないといけない」と言うようなことを言ったら、現状は二大政党制になっていない(勢いも比較にならない)と軽くいなされてしまいました。確かに夏の大会はお休みしましたが、発表者集めに苦労したようで、こちらの大盛況とは比べものにならないようです。
 こちらも勉強です。
別窓 | 大学での御仕事の巻 | コメント:0 | トラックバック:0 | ∧top | under∨

探していた本。

 確かに家にあるはずの本がなかなか見つけられず、諦めて注文寸前、薄暗い本棚をもう一度照らしてみたところ、くすんだ背表紙から、探していた本を見つけました。
 
 岸上慎二『清少納言伝記攷』新生社、1958年

 数年前、友人の父君の蔵書を形見分けして頂いた大切な本。原稿の締め切りが念頭にあって、場所を移しておいたのでした。何と言っても慌ただしく、本を分置させましたから。これで執筆の基本図書はすべて揃いました。
別窓 | 右書左琴の巻 | コメント:0 | トラックバック:0 | ∧top | under∨

何年やっても分からない。

 夏休みまで後、五週。試験に向けて講義内容を整理し始めた矢先、思わぬ失敗。いやはや、既に大学の教壇に立って十五六年になるけれども、ハプニングに対する対応は、いつもあたふた、みっともない限りです。
 人に恥を掻かせるようなことを平気でする、見た目は大人のなりをした人間をとりわけ軽蔑しているボクだけれども、今回は、結果的に四月当初から苦手だと公言していた人に対して配慮が足りず、直後に得意な人を指名して落差を見せつけてしまったという不始末。ただし、わざとではないし、次回を期して意地を見せて欲しいとも思います。

 その昔、塩川正十郎さんが財務大臣時代の講演中、執拗にヤジを飛ばした人間に、「人が話している間は黙って聞け!そんなことが分からんのか!」と一喝した、その心意気をふと思い起こして、気分一新。
 

 
別窓 | 大学での御仕事の巻 | コメント:0 | トラックバック:0 | ∧top | under∨

移り詞。 

 灼熱の感ある土曜日、京王線経由で池袋へ。立教大学の物語研究会例会。先月は永井先生の講演会のため欠席したので、二月ぶりでした。ここのところ、毎朝5時起きで大学に出向き、委員会続きで完全に体力はへばっています。
木曜日は、浜松町で研修、前の席には某短大の関係者さんもいらっしゃいました。金沢、沖縄の大学からの参加もあって、大学活性化の必要性をどこも危機感を持って考えているのだと言うことを改めて知りました。

 さてさて、「今日はだいぶお疲れですね」と声を掛けられるも、頭は使っていなかった研究の脳細胞が蘇った感があります。「おぼゆ」文脈について、中島広足の「移り詞」や話声の重なり合いの話をしたところ、言語態を分析対象とする先輩研究者が「そんなことは考えなくて良い」と発表者さんにアドバイスしていました。本当にそうなのでしょうか。あるいは、何か確証があるのか。註釈をしているとそう考えざるを得ないところがたくさんありますが…。
 へばっているときの中華料理は体によいですね。来月は横浜で集結しましょう。
別窓 | 生涯稽古の巻 | コメント:0 | トラックバック:0 | ∧top | under∨

夢日記

春の雪 [DVD]春の雪 [DVD]
(2006/04/28)
妻夫木聡竹内結子

商品詳細を見る
 晴天ののち雨となる。こんな夢を見ました。
 こっそり喫煙している少年に注意して帰宅したところ、家が火事になっており、必死に消火してなんとか鎮火。。。

 研究室に財布入りのセカンドバッグを忘れ、一晩数百円で過ごしました。たぶんこのことの夢告げだったのでしょう。おそまつ。
別窓 | 生涯稽古の巻 | コメント:0 | トラックバック:0 | ∧top | under∨

女神はいなかった話。

 梅雨入り。ロビーで五時限目のクラスの女子数名とすれ違ったので、「今日はテストあるよ」と伝えるも、いざ教室では男子が「今日は死んだ」とか口々に言っていました。「今日試験だと知らなかった人?」と尋ねると、男子全員が挙手。このクラスに女神はいないどころか、誰ひとりメアドすら交換してもらえていないらしい。男達よ、頑張れ…。

 ただし、クラスの雰囲気は頗る良く、気になる学生もいません(気づいていないだけかも知れませんが)。世に10人にひとりが精神面の不安を潜在的に抱え込んでいるとされていますが、講義形式で雰囲気がよいと見えて来ないものなのか、これが顕在化しないだけのことなのか、もう少し勉強したいと思います※。

 ともあれ、15年後には受験人口が現在の2/3になることが分かっていて、当然、580ある私立大学も定員削減や廃学、吸収合併も必定、いっぽう、頼りになる先輩研究者も多くは定年で致仕の大臣状態となれば、自分たちで生き残りの道を模索するしかありません。研究の啓蒙のみならず、環境全体のボトムアップが必要です。
別窓 | 大学での御仕事の巻 | コメント:0 | トラックバック:0 | ∧top | under∨

珍本『絵入竹とり物語』




 最近、入手した茨城多左衛門銘の版本。
 
 「今はとてあまの羽ころもきるをりそ 君をころもとおもひいてたる
                   
                       あはれ しりける 一本
 『竹取物語』の末流写本に、「哀」→「衣」の本文転化があることは有名。それを離屋鈴木先生所蔵の一本で校合してあり、全巻に渉って『竹取物語抄』などを参照しつつ出典の漢籍が書き込まれています。
 昔、『竹取物語』の写本、版本を渉猟していた時期がありました。まず、この和歌をチェックして、「衣/ころも」とあれば、さっさと次の本の閲覧に回っていましたが、自分の物ともなれば、愛着も湧くというものです。 
別窓 | 竹取物語 | コメント:0 | トラックバック:0 | ∧top | under∨

卒業写真 2010




 衣替えのクールビズを励行しているため、ネクタイを珍しがられましたが、昼休みに撮影があるがゆえ。雨で撮影場所が変更になり、この写真も暗いので、彼女たちも写りを気にしていましたが、それはプロのものゆえ安心でしょう。
 
 ここ数年、ほぼ定期便と化していた通信がパタリと途絶える。これもまた時の流れか。不思議な気分です。ただ、税金を払っているのだから、困りごとの仕事はきちんとして頂かないと。

 
別窓 | 大学での御仕事の巻 | コメント:0 | トラックバック:0 | ∧top | under∨

河内本を学ぶ。

源氏物語 鎌倉期本文の研究源氏物語 鎌倉期本文の研究
(2010/05)
大内 英範

商品詳細を見る


 今月前半の日曜日は出掛けずに済むので、溜まった本をひとつひとつ目を通しながら時々うたた寝。
今年、前半の成果の一つに、河内本の生成過程が解明されつつあることが挙げられます。では河内本原本はあり得るのか、あるとすれば、それはどのような本文であるのか、興味がそそられます。
 宇治十帖の巻巻は、書本が青表紙本で、それを源親行が河内本で校訂していった、などと言う仮説が提示されたのは、刮目の研究成果と言うことになるでしょう。ならば、研究対象とすれば、古伝本系別本と青表紙本とで、平安時代の本文が復原できるのか、興味がある人、そして『源氏物語』研究者は、ぜひ、ご精読を。
 
別窓 | 源氏物語の巻 | コメント:0 | トラックバック:0 | ∧top | under∨
| 物語学の森 Blog版 | NEXT